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時間を置くことで新しい恋が動き出す『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

新しい恋をはじめたい、でもなかなか終わった恋を忘れることができない──。

自分からではなく、相手から別れを告げられた恋は、別れを受け入れることがとても難しいものです。あんなに好きだと言ってくれたのに何故? ずっと一緒だって言ったのに、こんなに好きなのに、どうして別れなくちゃならないの? 

たとえ別れの予兆があったとしても、いざ相手から別れを告げられるとどん底に突き落とされてしまう。そこから這い上がり、気持ちの整理をつけるには、どうしたって時間が必要です。

恋の終わりに必要なのは時間

失恋の痛手は、時間が解決してくれる。その通りですが、その時間をどう過ごすかは十人十色、さまざまです。

・話し疲れるまで、泣き疲れるまで、友達にとことん話を聞いてもらう
・好きだった人を思い出さないように仕事に打ち込む
・食べたり飲んだり買い物をしたりして自分を満たしてあげる

そんなふうに失恋と向きあってきましたが、最終的には時間が特効薬で、1週間、1ヵ月、3ヵ月、半年、1年も経てば、過去の恋として記憶に刻まれるものです。

映画のヒロインに自分を重ねて心を癒す

失恋を描いた映画を見て、気持ちを整理したこともあります。オススメはノラ・ジョーンズとジュード・ロウ共演のラブストーリー『マイ・ブルーベリー・ナイツ』。

この映画のヒロインはエリザベス(ノラ・ジョーンズ)。心変わりしてしまった元恋人のことが忘れられなくて、彼の家の近くのカフェに出入りするようになります。そこで待ち続けたら偶然会えるかもしれない──未練100%です。

そんな彼女を温かく迎え話を聞いてくれたのは、カフェのオーナーのジェレミー(ジュード・ロウ)でした。

失恋を新しい恋で穴埋めしてもいいの?

ジェレミーは徐々にエリザベスに好意を持ち始めるので、優しい彼と付き合ってしまえば失恋の傷は癒えるかもしれない……それもひとつの方法ではあります。

しかし、この映画が伝えたいのは、過去の恋を新しい恋で埋めることは、本当の意味で失恋を乗り越えたことにはならない、ということです。 

映画の冒頭にエリザベスのこんなセリフがあります。

「道を渡るのに遠い“回り道”をしようと決めた」 

そして彼女は旅に出ます。元恋人からも新しい恋の相手かもしれないジェレミーからも距離を置くことを選んで──。

会えない時間と距離で見えてくるもの

エリザベスは旅の途中で、別れた妻への愛を断ち切れずにアルコール中毒になった男性とその元妻の女性、人を信じない若くて美しいギャンブラーと出会い、他人の人生を目にすることで、自分はどう生きたいのか、誰といたいのか、自分自身の人生を見つめ直していきます。

と同時に、ニューヨークを離れたからこそジェレミーをどう思っているのかにも気づき始める。会いたい、と思うようになる。失恋の傷が癒えてきている証です。


現代は繋がりを断ちたくてもSNSなどで、忘れたい相手=元恋人の情報が勝手に入ってきてしまう。失恋から立ち直ることが難しい時代です。でも、時間と距離を置くことがどれだけ効果的かを知ることで前に進める、新しい恋をはじめられると思うのです。

この映画の最初と最後に2人の関係を象徴するブルーベリー・パイが出てきます。美味しそうなパイを食べたくなるだけでなく、誰と食べたいか──も想像する。そんなふうに思い浮かべることで、そんな小さなきっかけで、新しい恋が始まるのかもしれません。
新谷里映
映画ライター、コラムニスト
雑誌編集者を経て現在はフリーの映画ライター、コラムニスト。雑誌・ウェブ・TV・ラジオ、各メディアで映画の紹介をするほか、コラムの執筆、映画のオフィシャルライター、トークイベントのMCなど幅広く活躍。