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12年間引きこもりを経験した心理カウンセラーが語る“社会復帰のカギ”とは

作成 : 2019.08.08 10:00
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現在、日本に約100万人いるとされる引きこもり当事者たち。最近では引きこもりが長期化して、親子間での収入や介護の悩みが深刻化する「8050問題」という社会トラブルが話題となっています。社会復帰するための糸口を見いだせず、精神的に追い詰められている人は数知れません。ストレスの多い現代では、自分を含む誰もが引きこもり状態に陥ってしまう可能性があります。

今回は、12年間の引きこもりを経験した後、心理カウンセラーとして活躍している曽我部 隆志(そがべたかし)先生にインタビューを行い、彼らが陥りがちな悩みや社会復帰をするために必要なことについて、自身の経験をもとに語ってもらいました。


親戚の心ない一言から始まった引きこもりの12年間


――曽我部先生が引きこもりになった経緯を教えてください。

私は小学生の頃から心身が弱く、病院に通いながら養護学校に通学する日々を送っていました。自分の発達障害が原因でトラブルを起こしがちで、学校では人と上手くコミュニケーションを取れませんでしたね。引きこもりになったのは、高校3年の進路を決めるタイミングでした。障害の程度が低いため特別な就労支援を受けられず、一般の就職先も見つけられなかったので、今後の道が決まらなかったのです。

そんな時、親戚のおじさんから「お前みたいなプー太郎はいらん!どうにかしろ!」と言われたのが、すごく心に刺さりました。その言葉を吐かれてから、買い物に行こうとしても心臓の動悸が激しくなって外に出られなくて…。周りの人たちが私のことをあざ笑っているんじゃないかと不安になり、部屋にこもるようになりました。

――引きこもりの頃は1日をどのようなサイクルで過ごしていましたか?

気落ちしているときはベッドに横になって寝ていたのですが、気分がいいときはネットで自分の症例を調べたり、出会い系サイトのチャットで架空のキャラクターをつくって、匿名の誰かとずっと話したりしていました。引きこもりの時期って誰とも話したくはないんですが、一人だけで過ごすのは怖いんですよ。だから、ネットの中で自分を肯定してくれる人をずっと探していましたね。

――一緒に住んでいたご家族とはどのように接していましたか?

父は引きこもりに対して理解がなかったので、よく顔を合わせるだけでケンカになりました。母はいつも私の機嫌をとって丸く収めようとしていましたね。私も、将来の話になるとよく暴れていたので、怖かったのだと思います。


カウンセリングを勉強して、自分の弱さを受け入れられた


――曽我部先生が引きこもりを脱して心理カウンセラーとなった経緯を教えてください。

引きこもり11年目くらいの頃に、母が心理カウンセラーの仕事に興味を持ち出し、初めてセミナーに行くのに一緒に同行させられたのがきっかけですね。「好きなうどん屋で海老天を奢るから教室についてきて」といわれたのを覚えています(笑)。

最初は「変な壺を買わされないか」と不安でしたね。しかし、セミナーは女性が多く、講師の方もとても緩い雰囲気の方でした。そこで、引きこもるきっかけとなった親戚のおじさんへの恨み言を話してみたら、講師の方がカウンセリングをしてくれました。

「それって親戚のおじさんのことが大好きってことだね」と指摘されたときは驚きました。幼い頃は実の兄のように尊敬していたことを思い出したんです。初めて自分の過去をちゃんと振り返られたのが衝撃で、そのセミナーにいつまでもいたいと思ったことを覚えています。

それから心理学にとても興味が湧き、愛媛県から福岡のセミナー教室(心屋塾)まで通って勉強するようになりました。学習にはかなり苦労しましたが、さまざまなカウンセリングの方法を学ぶと、自分の弱さや恥ずかしい部分を受け入れられるようになりましたね。そのうち、カウンセリングで私と同じような引きこもりの方を支援したいと思い、この仕事を選びました。

――引きこもりを脱する際、周囲の人たちはどのように協力してくれましたか?

母の精神的な支援は大きかったと思います。私はL'Arc~en~CielのHYDEのファンなのですが、成人式の日にライブに連れていってもらったことは特に忘れられません。また、L’Arc~en~Cielのファンクラブで知り合った友人たちは、私がパニック状態になると「大丈夫?」と心配してくれました。父からも心理学を勉強する際は経済的な支援をしてもらい、カウンセラーの先生方からも学ばせてもらって…本当に人に恵まれたと感じています。


「早く自立したい」という気持ちが、人の心を焦がしてしまう


――現在、引きこもりは社会問題となっていますが、彼らの社会復帰が困難な理由はどういったものでしょうか?

当事者が早く社会復帰を目指そうと焦るあまり、空回りするケースが多くあります。彼らは常日頃、両親が死んだ後の生活や就職先などの不安を抱えています。そのストレスが自分自身を責めたり罰したりする感情に繋がって、ますます外に出づらい状況を生み出すのです。当事者たちの真面目さと責任感の強さが、自分自身の心を縛っているといえます。

家族や周囲の人たちも、彼らの自立を焦って当人を深く傷つけることがあります。彼らにとって周囲の人達の心配の言葉は、責められているように感じてしまうことが多いのです。私の母も当時は自分を外に出そうと頻繁に声をかけてきましたが、そういった言葉が余計なものに思えていました。

「焦(あ)せる」の漢字は「焦(こ)げる」ともいいますので、お互いに心を焦がさないように気をつけた方がいいですね。

――引きこもりの社会復帰を支援する関係者が、実際の現場で苦労することはどういったことでしょうか?

彼らへの言葉がけですね。他人の言葉を過剰に受け取ってしまう傾向が強く、普段のコミュニケーションであれば大して意味のない言葉であっても、心に傷を負わせてしまうことがあります。彼らに届く言葉のキャパシティはとても狭いので、しっかりと関係性を築いた上で慎重に言葉を選ぶ必要があるといえます。

私が引きこもりの方をカウンセリングする際は、当時の自分が言われて辛かったことや苦しかったことを踏まえて、言葉を選びつつ対応するようにしています。相手が話したくない場合は言葉にするまで焦らずに待ち、言いたいことがあるときは、それを自然と聞くようにするのが大切だと思います。


自分の好きなことを見つけて、親子で社会との繋がりをつくろう


――引きこもり当事者が社会復帰をする上で重要なことはどういったことでしょうか?

まずは安心安全な場所で充分に引きこもらせてあげることです。ストレスと感じていることや嫌だと思う人から距離をとり、疲弊している心を休ませなくてはなりません。期間の長さは個人差がありますが、その間を安静に過ごせる環境にいることが大切です。家族や周囲の人たちは焦らず、彼らが立ち直るのを見守ってあげましょう。

それから自分の好きなことをやるのが大事です。自分の打ち込める趣味を見つけると、自分に自信が持てるようになりますし、外へ出て誰かと交流するきっかけにもなります。もちろん、引きこもり中はなかなか外へと出る気力が持てません。しかし、それを押してでもやりたいと思うことを実行してみると、得るものは大きいはずです。そうした成功体験の積み重ねが社会復帰につながることもあります。

また、自罰的にならないように考えることも大事です。何かに失敗しても、素直に認めて「仕方ないね」くらいの気持ちでいると、愛嬌が生まれて相手と柔らかく接せられるようになります。もし周囲からネガティブな目で見られても、「勝手に離れてくれればいい」と思いましょう。

――現在、心理的なストレスで悩まれている方へのメッセージをお願いします。

心に悩みを抱えているときは、相談する相手を選ぶのが大事だと思います。例えば、花屋を新しく始める際には、何も知らない人たちより、花屋の起業に成功した人に話を聞いた方がいいですよね。心の相談でも、自分の悩みを分かってもらい、なおかつそれを克服した人と話す方が実りは大きいのです。私であれば、引きこもりについての相談は受け付けています。
あなたの悩み、ストレスを理解でき、解決できる人に相談して、心のコリをほぐしていってください。


どんな辛い経験も未来に活きるものになる


現在、曽我部先生は直接対面でのカウンセリングはもちろん、オンラインで専門家のカウンセリングを受けられるLINEサービス「トークCARE」でも、引きこもりの方に向けた相談を行なうなど、実名・匿名を問わず、精力的に活躍中です。

インタビュー中、暗く重い過去を振り返りながら「全部は今につながるために歩んできたこと。どんなことでも自分たちの経験は未来に活きると思います」と明るく語っている姿が印象的でした。「いつまでも過去の失敗が許せない」「毎日後悔ばかりして憂鬱になってしまう」といった悩みに心当たりがあるときは、一度、曽我部先生とお話してみませんか?

【協力してくれたカウンセラー】
曽我部 隆志先生
心理カウンセラー
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ゆりいか
ライター
1989年生まれ、ライター。書籍やネットカルチャー、住まいなどをテーマに記事を書いています。主な執筆に『百合写真集』(一迅社)、『平成まとめクイズ』(永岡書店)『ゆりいかの文学住散歩』(日本住宅新聞)など。また、毎週月曜日に新宿ゴールデン街の文壇バー『月に吠える』でバーテンをしています。