▼承認欲求とは
西風先生は、「
承認欲求とは、他者承認(他人に認めて欲しいという承認欲求)と自己承認(自分の求める理想に近づける承認欲求)の2通りのパターンがあります」と言います。
西風先生「例えば、恋人同士が喧嘩をしたとき“私はあなたのことが好きなのに、どうしてわかってくれないの?”と言うようなことがありますよね。このように相手に自分の気持ちを認めてほしいと求めることを、他者承認と言います。また、“自分は良い大学に行って、良い会社に入り、良い生活をして、すごい人間になりたい!”というように、自分の理想を叶えて自分自身を認めることを、自己承認と言います」
他者主体か自分主体かという違いはありますが、どちらもようするに「自分を認めてもらいたい」という欲求だということがわかりますね。この場合「認める」とは、受け入れること、肯定すること、価値があると褒めること、などを指しています。
▼承認欲求はなにも悪いものではない
例えば仕事で努力してなにかを成し遂げたときには、「素晴らしいことをしたんだ」と自分や他人に認めてほしいと願うのは、当然の心の動きですね。人は自分で自分を「よくやった」と褒めることで自己承認を満たし、他人から「あなたが頑張ってきたことをわかっているよ」「あなたはすごいことをしたよ」と言ってもらうことで、他者承認を満たします。
しかし逆に、自分ではよくやったと思っているのに、誰からもなにも言われず「認められた」実感が得られなければ、他者承認は満たされませんし、「もしかして、よくやったと思っているのは自分だけなのかもしれない……」と、自己承認も危うくなるでしょう。そのような状況が続けば、おそらくほとんどの人は、こんな思いをして結果を出しても無駄だと感じ、いずれは行動すること自体をやめてしまいます。
他人から褒められるために仕事をしているわけではないという方もいるかもしれませんが、直接称賛されなくても、給与が上がったり、大きな仕事を任されたりといったことからも、他者承認は得ることができます。様々な形で、誰かの役に立っている、社会に貢献している、だから自分は価値のある人間なのだ、という自覚を補強し、人は生きていくモチベーションを維持しているのです。「認めてほしい」という感情は、その人の社会生活を支える大事な欲求だと言えるでしょう。
▼承認欲求は誰もが持っている
承認欲求は、程度の差こそあれ誰にでもあるものです。ただ、その欲求はもっと小さなことからも満たすことができますし、そのことを私たちは経験でわかっています。「承認欲求を満たすために誰もがやっている行動」について、西風先生は、以下の三つを挙げました。
・ファッション(洋服、マニキュア、ピアス)で自己主張をする
承認欲求に基づく行動として代表的なのは、外見を気にすること。世間で流行っているもの、権威のあるブランドもの、あるいは自分以外は選ばないような個性的なもので外見を飾り、他人から「おしゃれだね」「センスが良い」「他の人とは違う」と褒められたいと思うことは、実際に行動を起こしているかどうかは関係なく、多くの人が身に覚えがあると思います。
・自分から笑いを取りに行く
こちらも承認欲求が表出したひとつの形で、共感できる人が多いものでしょう。飲み会の席などで、時には自虐ネタで、時には身体を張って笑いを取りに行くのは、もちろんその場を盛り上げたいからでしょうが、「面白い人だな、また一緒に飲みたいと思ってもらいたい」と願っているのもまた事実だと思います。意図した通りに笑ってもらうことで認められたと感じ、承認欲求を満たしているのです。「誰にも認められなくてもいいから!」と奉仕の精神で、笑われる役を買って出る人はあまりいないでしょう。
・他人の言動や行動を否定する
自分とは異なる意見・他人の功績などを否定し、認めないことも、承認欲求が関わっている負の側面と言えます。意見や考え方が異なる人を「それは違う」「あなたは考えが足りない」と否定すれば、その人より優位に立ったような気になりますよね。また、自分にはできないことをやってのけた人に対して「大したことじゃない」と言えば、自分が劣っていることを認めずに済みますし、正しい価値判断ができる自分を装うことができるので、こちらも他人よりも上の立場になったような気分を味わえます。自分が、自分自身や他人に認められるにふさわしい行動を起こすのではなく、他人を貶めることでかりそめの満足を得る、という形で、承認欲求を満たそうとする人もいるのです。
▼承認欲求が強い人
承認欲求は人が社会生活を送るうえで、大事な欲求です。誰でも持っているもので、誰でもそれを満たすための行動を知らず知らずのうちに起こしています。しかし、あまりにも承認欲求、特に他者承認欲求が強すぎると、「自分を認めて!」というアピールが激しいあまりに、周囲に煙たがられてしまうでしょう。
そのように、承認欲求が強すぎる人は、行動も過激です。ファッションにこだわるだけならいいのですが、他人と差別化を図ろうとして度を越した突飛な格好をしたり、他人のファッションにケチをつけたりします。あるいは自分を棚に上げて簡単に他人をけなしたり、自分の存在を主張するため、周囲が眉をひそめるほど大声で話したりすることもあります。
上記の段落で挙げたように、誰にでも思い当たるような行動をしているだけならなにも気にすることはありませんが、ここまできたら気をつけた方がいいかもしれませんね。自分を認めてほしいから、他人に自分の外見や存在をアピールしていたのに、そのやり方を間違うことでますます「この人の欲求に応えたくない」と思われたら、元も子もありませんよ。
▼承認欲求の強さをチェック
承認欲求の強い人と聞いて、「あの人のことだ」「自分のことだ」とすぐに思い当たらない人もいるでしょう。そういう人向けに、西風先生がチェック項目を作ってくださいました。
・「また同じ話してるよ」と言われることが何度もありますか?
・「私の話を聞いて!」と言ったことが何度もありますか?
・グループの中で仕切り役をよくやっていますか?
・好意を伝える言葉を、はっきり言って欲しいと思うことが多いですか?
・「ファッションで目立ちたい」と思っていますか?
上記に当てはまる方は、承認欲求が強い人です。しかもその強い欲求を自分の中で抑え込むことができず、周囲にぶつけてしまっているようですね。何度も繰り返し「自分を認めて!」という本心が見え隠れする行動を取られたら、それに見合った結果を出していない限り、誰だってうんざりしてしまいます。自分は他人に認められるにふさわしいことをしているか、他人に求めた分だけ自分は他人を認めているのか、もう一度よく考えてみてくださいね。
▼承認欲求が強い人との付き合い方
承認欲求が強い人が身近にいて、しかもそれが自分から距離を取れない相手だった場合は大変だと思います。欲求が満たされない人はエスカレートしていきますが、当然、一方的に欲求をぶつけられ続ける周囲は次第に相手にしなくなります。そして自分の求めるものが手に入れられずにフラストレーションを溜めたその人は、さらに過激化していくからです。では、そんな困った人とうまく付き合っていくには、どうすればいいのでしょうか。
西風先生「例えば、承認欲求が強い人が職場の上司の場合は、“さしすせそ”+感情を伝えることでうまく付き合っていけるでしょう。これは褒め上手の“さしすせそ”のことです。さ:さすがです、し:知らなかった、す:すごいです、せ:センス良いですね、そ:そうなんですね。という五ワードに“〇〇さん、さすがですよね、(あなたのおかげで)うれしいです”という感じで感情を加えて伝えると、その上司は気分が良くなるでしょう」
▼SNSと承認欲求
最近では、X(旧Twitter)・InstagramなどのSNSで承認欲求を満たそうとする人も多いようです。必ずしも顔や本名を晒す必要がないため、日常生活で満たされない「認めてほしい」という気持ちを様々な形で主張できますし、人から褒めてもらえるようななにかをでっち上げることも簡単ですね。仕事や趣味でなにかを素晴らしいことを成し遂げるよりも、ずっと手っ取り早く承認欲求を満足させてくれるツールと言えるでしょう。
「あの人のSNSが鼻につく」という経験がある人は多いでしょうし、「あの人のSNSは承認欲求がにじみ出ている」という会話もしたことがあるのでは?そのように、「SNSで承認欲求を満たそうとする人」についても、西風先生が解説しました。
西風先生「SNSで承認欲求を満たす行為自体が悪いわけではありません。問題なのは、SNSでそれを“過剰”にしようとする人たちです。彼らは、本当の自分と乖離した自分を頑張って表現しようとしますが、その行為も行き過ぎれば、自分自身を苦しめるだけでしょう。その苦しさに耐えられない自分の心を置き去りにしていくうちに、SNSに理想の自分をアップする作業(行為)だけが先走りしてしまった状態になってしまいます」
「そうなってしまう根本的な原因は、日常生活の中で自分の心が満たされていないことだと思います。現実ではできていない、 “自分のことをわかってほしい、見てほしい”というアピールをSNSで必死に行って、それが満たされるまでやめられないでいるのです」
SNSで自慢話を繰り広げたり、華やかな生活を見せびらかしたりしていた人が、結果的に顰蹙を買って、今まで発信していたもののほとんどが嘘だったことが明らかになるケースもあります。
また、他人を否定することで承認欲求を満たす人もいる、と前述しましたが、面と向かってそれができる人はそう多くありません。行動を起こさずに他人を貶め、優越感に浸っているだけだということを、その相手本人や周囲に糾弾される可能性があるからです。その点SNSは、貶めたい対象と向き合わずに、一方的に攻撃することができるので、歪んだ形で欲求を満たそうとする典型的な振る舞いが散見されますね。
▼承認欲求をコントロールするには
承認欲求を満たそうとする行為は、行き過ぎれば周囲に不快感を与えるだけではなく、自分自身を苦しめる結果になります。特別な才能のある人、努力を惜しまない人は、他人からの称賛を得る方法を知っているので、この欲求に振り回されることは少ないかもしれませんが、常になにかを成し遂げ続けることは難しいですし、結果に対して必ず正しい評価がつくわけでもありませんよね。
西風先生は、「褒めてほしい」「認めてほしい」という気持ちが大きくなって辛いとき、上手にそれをコントロールするには、下記のような振る舞いがおすすめだと言います。
・「まぁいいか〜」とやり過ごす。
・「私ってすごいんだな〜」と自分を褒めてあげる。
・「私はこんなに認めて欲しいんだ〜」と、声に出して言ってみる。
・周りの人たちに、「こんな私だけど、好きでいてね〜!」と言う。
他人から認められるにふさわしい大きなことを達成しなくても、自分で自分を褒めることはできますよね。まずは自分自身そのものと、抱えている欲求を自分で認めることが、この抑えがたい欲求とうまく付き合っていく第一歩です。
▼まとめ
いかがでしたか?簡単に世界中の人とつながれて、いくらでも自己主張ができる時代でも、欲求不満で暴走する人は後を絶ちません。ただし、誰かのために行動し、結果を出すことで見返りを得られるのでなければ、「褒めてほしい」「認めてほしい」という高次の欲求が満たされることはありませんよ。承認欲求とはなんなのかを正しく理解した後は、自分が本当はなにを求めているのか、それを手にするにはどうするべきか、冷静に考えてみましょう。
▼ご協力いただいたカウンセラー
心屋認定カウンセラー。サラリーマン歴30年。心屋仁之助さんに師事する。悩んでいる、苦しんでいる人を一人にしないコンセプトを基に、坐禅と心屋さんのメソッドを駆使してカウンセリングを行っておられます。