今やスマホやPCでささっと検索すれば、欲しい情報は大抵手に入る時代、とても便利です。もはやネットのない環境なんて想像できないくらいネットは日常となりました。
でも、世の中が便利になればなるほど便利ではなかった時代が愛おしく感じることもあって──本の小説を読むことによって、欠けた何かが埋まっていく感覚とでも言うのでしょうか。
自分のペースで読み進めて、文字から想像して物語の世界観を構築する、それが心地いいのだと思うのです。ページをめくる感覚も好きです。
映画『マイ・ブックショップ』は、本を愛する主人公が書店のない街に書店をオープンさせるお話です。
戦争で夫を亡くしたフローレンス・グリーン(エミリー・モーティマー)は、夫と夢見た書店を開くことを決意、イギリスの小さな海辺の街で準備を始めます。
時代設定は1959年。
街に書店ができる!と人々が喜ぶかと思ったら少々違って、とても保守的なその街の人々のなかには書店ができることを快く思っていない人もいて……。特に、街の権力者であるガマート夫人(パトリシア・クラークソン)は、あの手この手で阻止しようとするのです。
正直に言うと、とても地味な物語です。ものすごく大きな事件が起きるわけでも、ドラマチックな恋愛が描かれるわけでもない──でも、心に響く。
それは主人公フローレンスの真摯で諦めないチャレンジ精神に、勇気をもらうからだと思うのです。
社会生活のなかでは意地悪されること、納得のいかないこと、理不尽極まりないと腹を立てることだってあるでしょう。そんなときに、どういう行動を取ればいいのかをフローレンスに教えてもらった気がします。
そして、フローレンスを形成しているものは本でもあって。だから本を読みたくなる! この物語の鍵となる本があるので、紹介しておきますね。
「華氏451」著:レイ・ブラッドベリ(1953年)
「ロリータ」著:ウラジーミル・ナボコフ(1955年)
「ジャマイカの烈風」著:リチャード・ヒューズ(1929年)
「ドンビー父子」著:チャールズ・ディケンズ(1848年)
「火星年代記」著:レイ・ブラッドベリ(1950年)
「たんぽぽのお酒」著:レイ・ブラッドベリ(1957年)
また、この映画を見たいと思ったきっかけは、監督がイザベル・コイシェだったこともそのひとつ。『死ぬまでにしたい10のこと』が代表作になっていますが、ほかにも『エレジー』や『しあわせへのまわり道』など、苦境に立った女性がどうやって歩いていくのかを描いていて、大好きな監督です。
今の自分を見つめ直したい、これからのことを考えたい──と思っている人は、この映画の主人公フローレンスの生き方、響くと思います! 個人的にフローレンスとビル・ナイが演じる老紳士の交流に心打たれました!
『マイ・ブックショップ』
3月9日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督&脚本 イザベル・コイシェ
出演 エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン ほか
公式サイト mybookshop.jp
ⓒ 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.