今年で結婚12年目、心理カウンセラーの吉見マサノヴです。私はよく「今の彼氏(彼女)と結婚するべきでしょうか」という結婚時期の見極め、結婚相手の見定めを求めるカウンセリング相談を受けます。
こう書くと私が結婚に対しよほど卓越した心眼を持っていると思われそうですが、そうではありません。結婚までの平均交際期間が約3年といわれている中、私の結婚までの交際期間は0日です。なぜ0日なのかというと、交際前の最初のエッチで子供ができてしまったからなのですが、
ここでは道徳や倫理観の話ではなく、相手のことをよく知らないまま結婚してなぜ12年も続いているのか、専門職としての心理学的知見と、私の妻の行動特性を中心にお伝えしていきたいと思います。
夫婦間において不満が出る前に何かしらの対策を講じ、積極的な介入を心がけていれば結婚生活が続くという話はこれまでいくつも論じられています。しかし、妻と何年も過ごしていると、私に「何かしてくれている」のではなく、むしろ「何かをしていない」ことがあるということに気づきました。積極的に介入するのではなく、ある要素に対し積極的に介入しないことに夫婦円満の秘訣が隠されていたのです。私はこれを「4つのS(しない)」と名づけました。
人は、自分の存在価値が認められると承認欲求が満たされ、承認欲求が満たされると自己顕示欲が芽生えてきます。そして、自己顕示欲が芽生えた夫に妻が抱く感情は「ウザい」となります。そう、私が颯爽と自己実現へ向かう過程を私の妻はウザいと言うのです。夫に対するウザさを回避するために私の妻は「あなたは褒めると調子に乗っちゃうから」とあまり褒めてくれません。年に1回くらい「よくやってるわね」と言ってくれる程度でしょうか。
■間歇的報酬
これは心理学用語で「間歇的報酬(かんけつてきほうしゅう)」といって、人は必ず報酬(承認)が手に入るよりも、間欠的(気まぐれ、不規則)に報酬をもらえるほうが対象にのめりこみやすいという心理原則で、ギャンブル依存などの依存形成のメカニズムでもあります。つまり、基本的に承認しないことによって、気まぐれな承認を得るために相手は頑張るのです。決して褒めないのではありません。「100%いつも褒める」ではなく、「100%時々褒める」ことによって夫は妻に関心を寄せ続けることができるのです。
相手を承認し続けると「もしかして私はなんでもできるのではないだろうか」という万能感や可能性が溢れ出します。男はその承認によって生まれた万能意識に刺激され、株や為替に手を出す、自己啓発セミナーに参加する、プロテインを飲み始めるなど、余計なことをやり始めます。承認とは過去を認めることであり、刺激とは将来を認めることです。しかし、結婚生活では過去の武勇伝や将来のビジョンを語るよりも、常に今目の前の食器を洗うこと、洗濯物をたたむことを求められます。
■自己愛的防衛
「刺激しない」とは、承認されて膨張した自己愛を刺激しないことです。必要以上に承認したり認めたりすると「自分は特別である」という思いが強くなり、洗っても取れない鍋の焦げつきや、ティッシュと一緒に洗ってしまった洗濯物を見て、自分に絶望し、怒りを抱いてしまいます。そしてそのような自己の痛みを伴う感情を排するために、目の前の家事を放り出して、自分が特別であることを妻に主張し、意味の分からない夢を語り始めます。これは心理学用語で「自己愛的防衛」とも呼ばれます。つまり刺激しなければ余計な防衛もしなくて済むのです。
妻からの相談を受けていたらいつの間にか夫婦喧嘩になっていることがあります。例えば「ちょっと聞いてよ」なんて妻が悩みや愚痴を話し始めたときに「こうしたほうがいいんじゃない?」と指示をすると、「私の気持ちも知らないで」と、決まって火に油を注ぐ結果に…。こちらとしては「じゃあ話すなよ」と思ってしまいますが、それは間違い。妻は最初に「ちょっと聞いてよ」とちゃんと言っているのです。
■無条件の肯定的関心
カウンセラーの基本的な態度の一つに「無条件の肯定的関心」というものがあります。相手を評価せず、否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、相手のありのままを理解して受容しようとする態度のことです。反論し、指示してしまうのは、自分の価値観や常識に囚われているから。逆に妻は私に対して「こうしなさい」と指示をすることはありません。指示せずにただただ聞いてくれます。「分かってほしい」と発信されているメッセージを「救ってほしい」と誤って受信してしまうことが夫婦喧嘩の始まりでもあるのです。
夫婦関係が長続きするのは、精神的な負担が掛かっていないからです。では、どういうときにパートナーからの負担を感じるかというと、あらゆる面で「依存されるとき」です。依存心が強い人は不安が強い人でもあるので、相手が秘密を持つことを嫌がる傾向にあります。これは、相手の全てを把握したいというコントロール欲求の表れでもあります。その点、妻は全く私のことを知ろうとしません。私が出版している著書すら読んだことがありません。
■秘密を守る能力
相手を知りたい思いの裏には、自分を知ってもらいたい気持ちがあります。自分を知ってもらいたい気持ちが強くなると秘密を保持することができなくなるので、相手の秘密も許せなくなります。精神科医の中井久夫氏は、心の健康の基準の一つに「秘密を話さないで持ちこたえる能力」というものを挙げています。自分のことを何でも話してしまうと自己と他者の境界線が曖昧になってしまうのです。つまり、妻は私を知ろうとしないことで、妻である以前に一人の人間として自立しているのです。
交際期間0日から始まった結婚生活は、妻に対し「昔はこうだった」と振り返ることができる過去もないため、「こうしてほしい」という思いもなく、今の状況を評価し判断することが求められました。
「こうしてほしい」という思いに隠されているのは、「~すべき」という思いです。この相手に自分の価値観を押し付ける「~すべき」思考は、実は離婚理由の上位を占めています。そのような中、妻が「~しない」ことによって、私はある意味、自由が保障されているのだと思います。
制限があるから、不自由だからこそ飛び出しますが、制限なく自由だからこそ、ずっとそばにいられるのです。鳥かごの入口がいつも空いていたら、安全な鳥かごの中で過ごすのは当然です。
妻は「~しない」という手法を取って私を見守っているのかもしれません。私は見守ってもらえるという安心感があるからこそ人生を躍動できるのです。まるで釈迦の手のひらで踊る孫悟空のようですね。