指をパチンと鳴らせば相手の頭上に貞操観念の数値が表示されたら、もう誰も傷つかなくて済むのではないか。
といっても誰も彼もに見られるのは恥ずかしいから、初デート開始から2時間後くらいに機能解放して…いやでも数値を公開した瞬間の気まずさたるや…などとくだらない妄想を繰り広げても何の意味もない。
赤裸々に話してしまうが、私は“いけそう”に見られがちだ。
おそらく統計的に、男たちが今まで出会ってきた“いける女”の平均みたいな顔をしているのだろう。
顔面偏差値と貞操観念が比例するとでも思っているのだろうか。私はこの“いけそうな顔”のせいでさんざんな目に遭ってきた。楽しくおしゃべりしていただけなのにホテルに連れていかれそうになったり、本当に好きになった相手にそういう女だと思われたり。
私は…私は!ただこれくらいの顔で生まれただけなんだ!いや何でこんな切ない主張をしなければいけないんだ。
男の方もさぞ見極めが大変だろう。おいおい俺だけ終電逃しちゃったよ…なんて日もあるだろうし、暗黙の了解だと思ったら「私たち付き合ってるよね?」などと言われることもあるだろう。
知ったこっちゃないがそれなりに苦労しているのだろう。知ったこっちゃないが。
その女の貞操観念がオープンなのかクローズなのか、こればかりは見た目やノリの良さでは判断できないし、何ならフレキシブルだったりするし、もちろん相手を選ぶし、男たちだって傷つきながら覚えるべきだ。
手を出そうとしてドン引きされる夜もあるかと思えば、手を出さなくて愛想を尽かされる夜もあるのだから。
嗚呼、もうこんなことを繰り返すのはやめよう。男が情けない思いをするのも、女が朝に後悔するのも、勘違いしちゃって好きになって傷つくのも、すべて貞操観念の程度が目に見えないせいなんだ!
もう無駄なジャブや牽制はいらないじゃないか!お互いの程度が分かればどれだけシンプルなことだろう。
でもきっとこれから先、何百年も何千年も、貞操観念が目に見える時代は訪れず、無限の男女が情けない夜や朝を迎え、曖昧な恋愛に傷つくのだろう。
この先もずっと。どうかせめて三百年後くらいには貞操観念のことを性教育の授業に加えてくれないだろうか。